モンテ・トンド

歴史家のジュール・ミシュレは、アレクサンドル・デュマのことを「ナチュラル・パワーの持ち主」と呼びました。この言葉は、ソアーヴェの町の入口に位置するモンテ・トンド社の魂であり、心臓であり、筋肉でもあるジーノ・マニャボスコのほとばしるような個性にもそのままあてはまります。丸いアーチの連なる回廊を配した社屋。段丘に広がるブドウ畑。点在する糸杉。それらが織りなす風景は、高速道路を出ると遠くからでもすぐに目に入ります。オーナーのジーノ・マニャボスコは、がっしりと顎の張った一枚岩のような顔に、目標をしっかり見据えたディープブルーの瞳、たくましい体格と強靭な体力の持ち主で、エネルギーと行動力にあふれ、知恵とアイデアの泉となっています。実際、ブドウ栽培の力量に加えて、猟師としても、豚の解体や石積み職人としても一流の腕前をもっています。疲れることも迷うこともなく仕事に打ち込み、どれほど乗り越えがたいと思われるような障害に対しても、けっしてひるむことはありません。
かつてガラス工場で働いていたジーノ・マニャボスコは、仕事に疲れ、およそ30年前に田舎に移り住み、家業のブドウ栽培に復帰することを決意しました。栽培しやすい平地にあった畑はすでにすべて売却してしまっていたので、クラッシコ地区の中心部、モンテ・フォスカリーノの周囲の高い丘の土地を手に入れました。しかしそこは、海抜の点でも勾配の点でもかなり難しい環境にありました。しかも、肝心のブドウ畑がない……現在、「スラヴィヌス」がある場所には、森しかなかったのです。しかし、ジーノは「マニャボスコ」、つまり「ボスコ(森)」を「マニャ(食べる)」という意味の苗字のとおり、伐採によってたちまち森を「食べて」しまったのです。そしてそれによって得た材木を売った金で土地を買い取ることもできました。今やヒロイック(果敢)な栽培の模範となっているこのブドウ畑の名は、地滑りのしやすさや急勾配(50~60%)を意味するヴェローナ方言「スライーニ」に由来しており、まるでヴァルテッリーナかチンクェ・テッレのブドウ畑が突然ソアーヴェ・クラッシコ地区に移植されたかのような印象を受けます。実際、トレント式ペルゴラ仕立てでガルガーネガを栽培する4ヘクタールのブドウ畑は段状になっており、オリーブ樹の茂る傾斜した崖のような土地に設けられています。土壌は玄武岩質で、粘土と凝灰岩で構成されており、海抜は180メートル、斜面は南西に向いています。ここからは、遠くヴァルポリチェッラの最初の山並みにまで広がるソアーヴェ南西側のすばらしい景観を一望することができます。そしてまさにここから、個性の強さでは出色のワイン、そして、きわだった特色と深みによってソアーヴェ・スペリオーレの中でも屈指のカリスマ性をそなえたワインが生み出されるのです。その特徴としては、ミネラルのゆたかな風味、ダイナミックで調和のとれた明確なアロマ、ブドウの収穫時期の遅さ(10月末)や大樽での醸造・熟成工程を最大限に生かした、広く深く浸透する味わいなどが挙げられます。
しかし、ジーノの実業家魂を物語るエピソードはそれだけではありません。今日、エレガントな直営ワインショップがある場所は、かつては未舗装の土地の真ん中に倉庫があるきりでした。ある夜、たまたま通りがかりの一台のセメントミキサーが、一夜の宿を求めてワイナリーを訪れました。すると翌日、ジーノはその広い空地をすっかり舗装してしまったのです。ワイナリーの建物もすべて、摘房や澱引きなどの作業の合間に、文字どおり煉瓦を一つ一つ積み上げて造られたもので、エネルギッシュな仕事ぶりとディテールへのこだわりの賜物といえるでしょう。ステンレス製醸造タンクやバリック棚(「私としてはバリックではなく大樽を使いたいのですが」)のそばには、バジリカのようにアーチを多用したテラコッタ煉瓦づくりの大広間があり、古き佳き昔の味わいを通じて、この場所の田舎風な趣との繫がりをよみがえらせています。ワインショップに隣接するテイスティングルームは、暖炉、いくつもの柱、アーチ、ポンペイ風のモザイクで飾られています。さらに、ワイナリー正面の回廊沿いには、農機具を展示した小さな博物館が設けられています。また近年には快適かつエレガントに仕上げられた部屋数11のアグリツーリズモ施設も新設されました。
スラヴィヌスのそばには、同じくソアーヴェを望むフォスカリーノの西側に、モンテ・トンド所有の名高い第2のクリュ、カセッテ・フォスカリンが広がっています。「カセッテ(小さな家)」という名の由来は、村から遠く離れているために、農家の人々が寝泊まりのための「仮の家」を建てなければならなかったことにちなんでいます。西向きの斜面に広がるブドウ畑は、広さ1ヘクタール強、海抜140メートル。ペルゴラ・ヴェロネーゼ仕立てで栽培されています。玄武岩性の土壌は、粘土と凝灰岩で構成され、崖のように切り立ったスラヴィヌスほどではないにしても、やはり急斜面となっています。そこから生まれるのが、信じられないほどのアロマの広がりを見せるソアーヴェ・クラッシコ。柑橘類や桃の香りに、魅力的な花の香りや、繊細でノーブルなオークのスパイス香が加わり、明確な個性と、いくぶんミネラルをおびた果汁感とが幸福な融合をみせます。

ジーノ、パオラ、ルーカ、マルタ・マニャボスコ
モンテ・トンド